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遺伝子がふつうに働いてくれれば、もって生まれた欠陥遺伝子の代わりとなって病気は治療されるはずだ。
もちろん、ヒトにまったく害を与えずに運び屋役だけを果たす、遺伝子治療にとって都合のよい性質だけをもったウイルスは天然には存在しない。
そこで、マウスに感染するウイルスを改良したりして、毒性など害になる部分を除いた特別な改良ウイルスを、ベクターと呼ばれる運び屋に仕立てあげる。
このベクターに正常なADA遺伝子をもたせて、ADA欠損症の患者の血液から集めたリンパ球に感染させる。
ドクターの意見「この方法が実際の患者にたいしてもうまくいく、ということを私は確信していました。
しかし、初めての治療であるため『時期が早すぎる、慎重に進めるべきだ』という声も多くありました。
そのため、当時の私は、医学者として白衣を着ている時間がほとんどなくて、政治家のようにスーツを着ている時間のほうがずっと長かったですよ」こんな思い出話を聞かせてくれたのは、ワシントンで会ったF・A博士(現・南カリフォルニア大学教授)である。
A博士は、冒頭に紹介したAとSの遺伝子治療を手がけた″第1号遺伝子治療ドクター″の1人で、当時はNIH(国立衛生研究所)の研究者であった。
医師になったのも遺伝子を使った治療を実現させたかったためで、早くから自分こそ最初の遺伝子治療をやれば、新しい遺伝子をもったリンパ球が血液中などで働いて免疫力を発揮してくれる、というメカニズムが考えられるわけである。
場合によっては外来遺伝子が働きすぎて、必要以上に作り出したタンパク質が人体に悪い影響を与える、といった計算違いが起きるかもしれない。
しかしADA酵素では適正量がそれほど厳密ではないため、外来遺伝子の働き具合を厳しくコントロールする必要がない。
外来遺伝子を体内で発現させることはできても、どのくらいタンパク質を作るか、止めるにはどうしたらよいかなどの制御は、現在の遺伝子操作のレベルでは難しい。
そこで、ADA酵素の″アバウトさ″も、この遺伝子治療を容易にしたことを付け加えておく必要があるだろう。
実施する研究者になると決めていたと語る。
「どんな病気を治すかより、いかにして遺伝子治療を自分の手で開発するか、のほうに興味を持ち続けていた。
だから、第1号になることは私にとって大きな意味があったのです」とまで明言するのである。
そして「遺伝子治療という方法を使えば、いままで絶望的だった遺伝病が治せるかもしれない」と考えたのが、小児科医で遺伝病の専門家であるNIHの研究者M・P博士である。
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